少なくとも150回は読んだ『シッダールタ』
わたしはものがたり、というか寓話が好きです。
真実は、写実ではあらわすことができないのではないかと考えており、寓話は真実を語るために適した形だと思っているからです。
考えてみると、子どもの頃からミヒャエル・エンデの『モモ』や宮沢賢治が好きだったのです。
『モモ』などを読むもっと前には、古いぼろぼろのグリム童話を愛読していました。今、青空文庫に入っているグリム童話
を見てみれば、この文体の古色蒼然たる風情、どうやら私が読んでいたのはこれだったようです。
古い記憶の底に沈んでいた「ラプンツェル」をちょっと引用します。
むかしむかし夫婦者 があって、永 い間 、小児 が欲 しい、欲 しい、といい暮 しておりましたが、やっとおかみさんの望 みがかなって、神様 が願 いをきいてくださいました。この夫婦 の家 の後方 には、小 さな窓 があって、その直 ぐ向 うに、美 しい花 や野菜 を一面 に作 った、きれいな庭 がみえるが、庭 の周囲 には高 い塀 が建廻 されているばかりでなく、その持主 は、恐 ろしい力 があって、世間 から怖 がられている一人 の魔女 でしたから、誰一人 、中 へはいろうという者 はありませんでした。
或 る日 のこと、おかみさんがこの窓 の所 へ立 って、庭 を眺 めて居 ると、ふと美 しいラプンツェル((菜の一種、我邦の萵苣(チシャ)に当る。))の生 え揃 った苗床 が眼 につきました。おかみさんはあんな青々 した、新 しい菜 を食 べたら、どんなに旨 いだろうと思 うと、もうそれが食 べたくって、食 べたくって、たまらない程 になりました。それからは、毎日 毎日 、菜 の事 ばかり考 えていたが、いくら欲 しがっても、迚 も食 べられないと思 うと、それが元 で、病気 になって、日増 に痩 せて、青 くなって行 きます。これを見 て、夫 はびっくりして、尋 ねました。
「お前 は、まア、何 うしたんだえ?」
「ああ!」とおかみさんが答 えた。「家 の後方 の庭 にラプンツェルが作 ってあるのよ、あれを食 べないと、あたし死 んじまうわ!」
男 はおかみさんを可愛 がって居 たので、心 の中 で、
「妻 を死 なせるくらいなら、まア、どうなってもいいや、その菜 を取 って来 てやろうよ。」
「お
「ああ!」とおかみさんが
「
この渋い文体を、幼少期に愛読していたのですから、おもしろいですね!そしてその古い文章がすぐ引っ張り出せるネットというもののすごさに驚かされます。
先日書いた「すべての道は神に通じる---ラーマクリシュナ」
でインドの聖者ラーマクリシュナの本を少なくとも100回は読んだことを思い出したのですが、もっと読んだ本があるのを思い出しました。
それは、ヘルマン・ヘッセの『シッダールタ』です。
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暗記するまで、何回読んだか分かりません。1年以上、ひたすらこの本を読んで、ついにわたしはインドに行って暮らし始めたのです。これは、非常にすぐれた寓話です。お釈迦さまと同じ名前のシッダールタが主人公ですが、お釈迦さまとは別人です。でもお釈迦さまの歩んだ道と同じような道を、シッダールタは歩みます。
シッダールタは悩み、苦しみ、人生にもまれながら真理への道を歩みます。
わたしもシッダールタに自分を重ねていたのかもしれません。
これは、すぐれた、比類ない寓話です。
虚構というかたちをとった「ものがたり」が、実は人生の真実を映し出している。その美しさにうたれます。
物語の醍醐味を味わうにはうってつけの本です。とてもやさしく書かれていますが、一文字一文字が重いです。
夏の夜の寝苦しさを忘れるには、おすすめです。